本を読むときに、テキストに蛍光ラインや赤線を引いてきました。

でも、引いただけで、そのまま放置されていました。

せっかく、そのときに何かを感じて引いた蛍光ライン・・・

そんな蛍光ラインたちをときどき、ここに書き写して行く事にしました。

39. 『ビジネスの倫理学』p115 梅津光弘(丸善)

「責任ある商業上の成功」--- これがジーンズで有名なリーヴァイス社およびロバート・ハース社長のモットーである。ハース社長は企業も倫理的な生き物であり、利潤を上げることとこの世界を少しでも住みやすくよりよい場所にする両方の課題を実現する能力があるものと考えてきた。(中略)海外進出を目指す場合にも、まず、進出先の国や地域の発展を第一に考え、自社のビジネス上の成功は二の次とまで言い切る。現地からの強い要望があってバングラデシュのダッカにDockersという新しいブランドのジーンズ工場を建設した時も、そのような理念のもとでの決断であった。この工場の操業は数年のうちに軌道に乗り、現地の下請け業者から納入される製品も質の高いものであった。
(中略)下請け業者の工場で働いている労働者の大半が11〜13歳の少女であり、多くが学校を退学して働きに来ているという。これはアメリカ国内の法に照らして違法であるばかりか、多くの先進国でも同様であり、さらにILOなどの国際団体の規準に照らし合わせても違法である。ところが現地の人々に聞くとバングラデシュのこの地域では女子は一生家事労働や子育てに追われて過ごし、教育や学齢は全く重視されていないという背景から学校へ行けないことを問題視する親もほとんどいない。
リーヴァイス社の場合、過去には非人道的な工場労働者の扱いをしている下請けや刑務所労働を利用して労賃を低く抑える政策を打ち出している国・地域からは、そのような操業形態が改善されない場合は全面撤退するという形で自社の倫理的姿勢を貫いてきた。バングラデシュの今回のケースも若年労働という非常に大きな問題を抱えているわけで、全面撤退は会社の基本理念とも一貫しているように見える。しかし、一方ではリーヴァイスが撤退することはこの地域社会に対して深刻な経済的な打撃となり、ひいては世界の最貧国バングラデシュの経済発展に対しても波紋を及ぼすことになりかねない。(「ビジネス・ウィーク」誌1994年8月1日号の特集記事を中心に作成)


自社の理念、倫理姿勢に照らせば、全面撤退するケースであるが、地域事情を考えれば、撤退そのものが、順調に回っていた現地の人々の経済活動を破壊することになる。この難題に、リーヴァイス社はどのような答えを出したのだろうか? 

一見、二律背反に思えるこの難題に対して、当時のハース社長および経営陣は見事な答えを導きだす。

撤退はしない。現地に学校を設立し、若年従業員は昼間フルタイムで学校に行かせた。しかも、今まで払っていた給料はそのまま払い続けた。そして、義務教育過程を卒業した時点でまた工場で雇用することにした。

このときにこの決定に対して、クレームをつけた株主からは株を買い取ったという。

素晴らしいリーダーシップであり、経営である。この話を知ってから、もちろんジーンズはリーヴァイスにしている。

 


投稿日:2012-10-28